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「辻田さんとはじめて話をしたとき、粒の山椒を送ってほしいとお願いしました」 二度目のパスタ世界大会に出場する前、「SALONE2007」のシェフ、 弓削啓太は粉ではなく、粒の山椒を使いたいと辻田浩之に頼んだ。 会場の審査員に粒の山椒を食べてもらいたいと考えていたからだ。
「粒の山椒はコーヒー豆のように、噛んだ瞬間、 口のなかにコーヒーの香りがふくらむものだと思っていました」 弓削の要望に対し、辻田はこう伝えた。
「石臼でひいた粉の山椒のほうが香りが断然いい。 一番いい状態の山椒を送るので、一度使ってみてほしい」と。 数日後、弓削の手元に粉の山椒が届いた。
「袋をあけた瞬間、香りと美しい色にびっくりしました」 山椒の実を辻田がどのようにして抹茶のような粉の山椒に仕上げているのか。 粒と粉の山椒はどこがどう違うのか。辻田におしえてもらった。
 3品種の山椒を石臼で挽き、粉に仕上げる
ひ と 口 に 山 椒 と い っ て も い ろ い ろ 品 種 が あ る 。「 や ま つ 辻 田 」 で は 、 各 地 の生産者に栽培委託をしている山朝倉山椒、朝倉山椒、ぶどう山椒を使 ってきた。
朝倉山椒は上にのびるのが特徴で、ぶどう山椒は横にひろがるように生 える。山朝倉山椒は朝倉山椒よりも幹が太く、力強さを感じると辻田は いう。 各地の生産者から届いた山椒を辻田は大阪の堺にある工房で粉の山椒 に加工している。
3品種の山椒をそれぞれ乾燥させたものの芯を抜き、独自の配合でブレ ン ド 。そ れ を 石 臼 で 何 度 も 挽 い た あ と 、目 の 細 か い ふ る い に か け 、粉 の 山 椒に仕上げる。
「色の朝倉山椒、香りのぶどう山椒といわれています。うちでは色も香り もすぐれた山朝倉山椒に、この2品種をブレンドしています」 こうして作った粉の山椒を単体だけでなく、極上七味唐辛子と柚子七味 にも加工している。 ミルで挽いてもおいしい山椒にはならない
話を弓削と辻田との会話にもどす。 当初、弓削は粒の山椒をパリで開かれるパスタ世界大会の会場に持って いき、ミルで挽きたいと考えていた。
「弓削ちゃんにはっきりいいました。ミルで挽いてもおいしくないよって」 なぜおいしくないのか。辻田は続ける。
「石臼で挽いた山椒は、粒子の角がとれ、絹のようなキメが細かい粉にな ります。ところが、ミルで挽くと粒子が粗くて、しかもとがるため、舌に刺さ
る感じがします」
であれば、パリに石臼を持っていけばよかったではないか。 「石臼だけではだめです。石臼で挽くと肉眼では見えない砂塵が入る可能 性がある。それを完璧に除去するため、うちでは高額な磁力選別器を導
入しています」 これまで一度も異物が混在したことはないが、保険として磁力選別器に かけているというのだ。
石臼で挽いた山椒でパスタ世界一に輝いた
石臼と異物除去装置をパリに運ぶ手もあったはずだ。 「以前、髙島屋の催事で山椒を石臼で挽いたことがあります。1階下のフ
ロワーにも山椒の香りが届いていました」 粒の山椒が会場に置かれていたら、山椒を知らない外国人は興味をいだ いてくれたはずだ。もしそれがコーヒー豆のようなものであれば、挽きた ての香りに外国人は感動してくれたかもしれない。
ところが、山椒はそうではない。 会場で山椒を挽いたら香りが充満し、審査どころではなかったかもしれ ない。
辻田は山椒の特製を弓削にこんこんと說明した。
「石臼で挽いた山椒を冷凍したままパリに持っていき、料理を作る直前、 開封したほうが香りも色もいいと弓削ちゃんに伝えました」
その結果、弓削は粉の山椒を使った「ペンネ アル ゴルゴンゾーラ」を披
露し、「パスタ・ワールド・チャンピオンシップ2019」で見事優勝した。 「SALONE2007」では、牡蠣を使う「ペンネ アル ゴルゴンゾーラ」を毎
年1月から3月までメニューに掲げている。 パスタ世界一の弓削と辻田がタッグを組んだ、和の香りのパスタだ。機会 があれば、ぜひ。(敬称略)
              (取材・文/中島茂信、撮影/海保竜平)

【SALONE2007】
神奈川県横浜市中区山下町36-1 B1F
045-651-0113
営業/12:00~15:00 (LO13:00)、18:00~22:30 (LO20:00)
無休
http://www.salone2007.com/
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