ここまで、堺周辺で栽培されてきた「泉州産たかのつめ」、ひいては、やまつ辻田が120年という長い年月、守り伝えてきた「鷹の爪純系品種」の歴史を紐解いてきた。
             今回は、鷹の爪が日本人の食生活の中でどういった使われ方をしてきたのか、農学博士の森下正博先生(元大阪府立食とみどりの総合技術センター 主任研究員)が古い文献からまとめられたものをご紹介しよう。日本人が薬味として、日常的に唐辛子を愛用していたことが伺い知れる。
             宣教師ルイス・スロイス(1532~1597)は、日本に35年間滞在し、天正の頃(1573年から1592年頃)の人々の風俗、習慣などについて『日欧文化比較』(※1)に、加津佐(長崎県南東部、島原半島南部にあった町。現在の南島原市の南西端部にあたる)で1585年にまとめている。
             「第6章 日本人の食事と飲食の仕方 23」では、「われわれは砂糖や卵やレモンをつかって(麺類)を食べる。彼らは辛子や唐辛をつかって食べる」と記録しており、おそらく薬味として乾燥した辛いトウガラシを日本人が麺類にかけていたことが伺われた。
             時代が下り、江戸時代の料理本(※2)には、生または干し物でトウガラシが使われており、宝暦10年(1760)の『献立せん』には、加減の部にとうからしみそ、青とうからしすの記載がある。
             その他の料理本にも、生「したし物、取肴、田楽、青煮蕃淑、やきとうがらし、たたきとうがらし」などがあり、中でも1820年頃の『精進献立集』には、「汁 たかのつめとうがらし 二つばかりに小口ぎり しるわん(汁椀)のふた(蓋)のいとそこ(糸底)にのせてだす」と、品種名が確認できた。
             そして、辛み系のトウガラシの干し物は、「田楽、鴨ほうらく料理などに、粉にしたトウガラシを味噌や醤油、酢に混ぜた とうがらしみそ、とうがらしすみそ、青とうからしす、さしみ料理にはとうからし醤油、紫蘇飯、蕎麦飯などの加役、そして薬味として吸い口に ことうからし、唐からし柚子」と幅広い料理に利用されており、生、干し物と変幻自在に料理に関わるトウガラシは、時には主役あるいは名わき役を演じていた。
            「なにわの伝統野菜『堺鷹の爪 純系品種』について一考察」
            元大阪府立食とみどりの総合技術センター主任研究員・農学博士 森下正博氏)より
            【参考資料・引用文献】
            ※1 岡田章雄(1999)ルイス・スロイス著(1585年)
                     『ヨーロッパ文化と日本文化』岩波文庫、p.97
            ※2 森下正博(2022) 「唐辛子”鷹の爪”を中心としたよろず年表とその利用および
                    諸国産物帳にみられる蕃淑の品種名」(未発表)
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