古くから日本人に愛されてきた唐辛子と、それをこの堺で長く守り伝えてきたやまつ辻田の歴史を、農学博士の森下正博先生(元大阪府立食とみどりの総合技術センター 主任研究員)の考察から取り上げてきた。今回は、森下先生が考察の最後にまとめられた「堺鷹の爪」が何とも交配していない日本で唯一の鷹の爪純系品種と認められるにいたったいきさつについてご紹介する。
 やまつ辻田が守ってきたトウガラシの「泉州特産たかのつめ=鷹の爪純粋種」は学術的な表記ではなく、日常の商習慣で個人が用いていた固有名詞と解釈し、「なにわの伝統野菜」の認証申請を大阪府に提出した令和3年5月31日のことで、「泉州特産たかのつめ=鷹の爪純粋種」から“堺鷹の爪”(※1)に改名した。
 令和3年7月に認証となった“堺鷹の爪”の大阪府南河内郡河南町阪上勝彦氏の栽培圃場において、立ち毛および果実の調査(※1)を行った。さらに、辻田氏へのヒアリング(※2)から“堺鷹の爪”は、朱色から赤色で花梗の細い約3cmの小果が上向きに節ごとに着生し、果肉が薄く、収穫後の乾燥で光沢のある濃朱色から鮮紅色を呈し、香りも良く、大変辛く、2子室の果実内に50粒以上の淡黄色種子がぎっしりと詰まった果実が出現していた(図参照)。
            “堺鷹の爪”の開花・着果習性および果実の色、形、大きさなどの諸形質は、熊沢らが調査(※3)した節なり性“鷹の爪”の結果に近似していた。また、文化2~3年(1805~06)の『成形図説』(※4)の「小なるは鳩爪の如し、なづけて鷹爪(たかのつめ)といふ。」の記述と図にも相似していると判断された。 
 さらに、信州大学農学部の松島憲一教授は「“堺鷹の爪”について、房成でなく、節ごとに小さい果実が一つずつつく品種で、辛みが強く、香りも非常に良い。さらに、平賀源内(1728~1780年)の『蕃椒譜』(※5)にトウガラシ“鷹ノ爪”の項に記載されている記述と図から、認証された“堺鷹の爪”は、平賀源内の頃にあった本来の上向きの節なり、小果実の鷹の爪の特性を継承していることを認めており、また、市販の房成り性“鷹の爪”は昭和の頃に現れ始めたものと考えられると述べている。(※6、※7)


 平賀源内『蕃椒譜』より/国立国会図書館蔵『平賀源内全集』下巻(名著刊行会発行)
 「此種コトゴトク天ニ向ヒ 形甚小クシテ愛スベキ風情ナレハ 衆人盆ニ植テ弄トス 其形鷹ノ爪ニ似タレハトテ名トス 味至香辣左ナカラ食スルニハ是ヲ第一トスベシ」
 
 以上、立ち毛調査および関係資料から判断して、泉北郡内でやまつ辻田が今日まで自家採種を続けてきたこの“堺鷹の爪”には、明治28年頃に当地域で栽培されていた“鷹の爪”の持っていた本来の「果実特性と節なり性形質」が、保持されているトウガラシ品種であることが明らかとなった。
 以上、なにわの伝統野菜に認証となったやまつ辻田の“堺鷹の爪”は、立ち毛における節成りの開花、着果習性、果実の形態および関係資料から総合的に判断して、松島教授の指摘(※6、※7)のとおり、時代が遡った江戸時代の平賀源内(※5)の頃にあった本来の“鷹ノ爪”の特性が保持されていることから、“鷹の爪”の純系種(*)と判断され、「堺鷹の爪 純系品種」と表記することができる。
*ここでいう純系種とは、優良個体の選抜と採種を繰り返し、純度を上げこれ以上
   形質が分離しない段階で、かつ実用上の均一性を持った集団、品種をさす。
   「なにわの伝統野菜『堺鷹の爪 純系品種』について一考察」
(元大阪府立食とみどりの総合技術センター主任研究員・農学博士 森下正博氏)より

【参考資料・引用文献】
※1 森下正博、難波りんご、清原風早子、阪上勝彦、辻田浩之(2022) 
        なにわの伝統野菜“堺鷹の爪”の品種特性と来歴(日本家政学会・食文化研究部会、
        オンライン関西地区例会4年3月12日発表)
※2 辻田浩之 和風香辛料の伝道師(堺びと)、堺市役所HP(2015) 
※3 熊沢三郎、小原赳、二井内清之(1954) 本邦に於けるとうがらしの品種分化、
         園芸学会雑誌23(3)16-22
※4 杉山直儀(1995) 『江戸時代の野菜の品種』トウガラシ38~41 養賢堂
※5 平賀源内(1728~1780年)『蕃椒譜』 国立国会図書館蔵
        (平賀源内全集下巻、名著刊行会発行)
※6 松島憲一(2020) 『とうがらしの世界』 190~192 講談社
※7 松島憲一(2021) なにわの伝統野菜・堺鷹の爪は、本来の鷹の爪 産直コペル50号
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